が,同時に科学技術災害についての解釈や経験を一般市民が発信する場でもあり(Abe, 2017),科学 や 専 門 知 に つ い て の 社 会 的 イ マ ジ ナ リ ー(Jasanoff and Kim, 2015)をとらえるための重要な資料である.本研究は,政治風刺マンガを対象に,専門家・専門知が一般市民の間でどのように表象されてきたかを分析した.1.5.2 研究方法・経過 本研究は 2020 年から 2021 年にかけて製作された日本政府の対応を批判する政治マンガエッセイ,特にリベラル・保守の両極から,ぼうごなつこの『100 日で収束しない日本のコロナ禍』と小林よしのりの『ゴーマニズム宣言スペシャルコロナ論 3』を取り上げ,科学・専門知・専門家の表象を分析する.方法として,MaxQDA を用い,2 つの漫画エッセイの,文献と帰納的分析に基づくコーディングを行った.本研究で扱うコードは「専門家」「科学」「事実」であり,それぞれ,専門家についての言及,科学または科学知識についての言及,事実を事実である(または事実でない)とする主張を含む言及をコード化した.1.5.3 研究成果 コード化されたセグメントはそれぞれ 288 点(ぼうご)と 835 点(小林)にのぼった.画面構成や総文字数の差から,小林の方がコード化されたセグメントが多いが,ぼうごの「専門家」と「科学」のコードがほぼ同数に近かった(「専門家」29,「科学」27 点)のに対し,小林は「科学」のコードが突出して多く(90 点),次いで「事実」(66 点)であった.両者に共通する特徴としては,反権力であり,政府や特定の専門家について否定的でありながら,自らの主張が「科学的」「論理的」「データに基づく」ものであることの強調が多く見られた.例えば科学的なメカニズムを教育マンガのように視覚的に説明する内容や,「データを正しく読む」やり方を説明する内容は共通していた.つまり,反権力・政府批判ではあるが,その批判の根拠は(彼等自身が正しいと理解している)「科学」「論理」に基づいており,政府や特定の専門家の「非論理性」を強調するものである. ただし,「科学」「論理」の表出の仕方には違いが見られた.第一に,ぼうごが専門家・政治家の発言の報道とそれに対する反論を短く 1 コマずつ端的に表現しているのに対し,小林は報道の説明・引用と反論が複数コマにまたがり,専門家の発言と小林の発言が別々のコマとして交互に現れるような構成となっている.この違いからはぼうごが(正しい)論理が共有されているという前提を「長々と説明しない」「一言で分かる」ことで表現しているのに対し,小林は「何故自分の反論が正しく専門家の発言が間違っているかを丁寧に説明する」ことを通じて,自らの論理が「誰が読んでも正しいと分かる」ことを強調している. 第二に,専門家に対する不信感の根拠が異なった.ぼうごの不信感の根拠には「連座の誤謬」(guilt-by-association)とも言うべきものが見られ,政府によって任命された専門家はそれ自体が信用ならず,特定の分野の専門家が専門外の分野で発言や知見を求められることは不適格であるとした.よって,「専門家」そのものに不信感を抱いている訳ではない.それに対し,小林は「専門家」「専門知」そのものがサイロ化されているとし,他分野のことが見えていないため,不信感の根拠は「専門家」のあり方そのものである.小林にとって信頼できる専門家とは「総合知識」を持つ人間であり,究極的には自分自身または自分の解釈と一致する人々となる. ぼうごと小林の「専門家」「専門知」に対する解釈は,様々な論争(マスク,PCR,ワクチンなど)が一般市民に感情的にどう理解されているかを視覚的に説明し,それらの論争における戦略,前提,論理の訴求の多様性を示すものである.国際比較調査においても,日本では専門家は比較的信頼され て い る と さ れ て い る が(石 橋・田 中・関 谷 2021),政治風刺マンガのような周縁メディアにおいてははっきりと(時に過激に)異議が唱えられている.しかし,その異議においても「科学」への信頼は揺らいでいないことが特徴的であり,菅原(2022)が「科学化」と述べる「『科学』と『政治』の絡み合った問題を「科学」の問題と見な」すことを希求する様相が見られた.1.6 COVID-19 ガバナンスにおける専門性の課題〜日本における科学主義,政治,そしてメディア環境1.6.1 研究目的 科学技術社会論分野を牽引してきた著名な研究者である Sheila Jasanoff(ハーバード大学)とStephen Hilgartner は,COVID-19 パンデミックに際して各国社会の対応を国際研究プロジェクト“Comparative Covid Response: Crisis, Knowledge, Policy”(略称 CompCoRe)を組織して比較分析した.田中,佐藤,寿楽は本研究に先立ってこの CompCoRe に 参 加 し た が,そ の 中 間 報 告 書日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書36
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