日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書(日本語)
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 一方で,もし人類が COVID-19 に向けたエネルギーをもってマラリアに向き合ってきたならば,という議論が起きた [Ntoumi F. 2020].また今般の米国の政策転換は,マラリア対策の現場にに深刻な影響を及ぼしている [Symons TL, et al. 2025]. 今この新たな局面における熱帯アフリカのマラリア撲滅と開発の加速が望まれ,日本の役割が問われる. マラリアベルトの東端,ケニア・ビクトリア湖畔のホマベイ郡が我々の対象地である(図 2).当地では高い 5 歳未満小児死亡と貧困の悪性連鎖が続き,その死因のトップはマラリアである. 対象地においても,2000 年来,マラリア迅速診断(RDT)とアルテミシニン基盤併用化学療法(ACT)による早期診断治療,長期残留型殺虫剤処理蚊帳(LLIN)や室内残留噴霧(IRS)などの媒介蚊対策,さらに妊婦に対する間歇的予防投薬(IPTp)などの有効な対策法のスケールアップが進められてきた.日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書22助 成 期 間:2021 年 12 月 1 日~2024 年 11 月 30 日 助 成 金 額:3,000 万円 研究代表者:金子明       大阪公立大学 大阪国際感染症研究センター/大学院医学研究科 特任教授       カロリンスカ研究所 教授 ケニア・ヴィクトリア湖周辺地域では,今般の治療・診断薬や媒介蚊対策などのスケールアップにも関わらず高度マラリア流行が続く.その背景として,当初,我々は次の課題を見出した:(1)多くの無症候感染者,(2)媒介蚊殺虫剤耐性,屋外吸血性,(3)住民の多様な行動.それらに対処するため,我々は二つの新規対策法をクラスターランダム化比較試験で検証してきた.殺虫剤処理(OlysetPlus)天井式蚊帳は対象住民のマラリア感染率および発症率を半減させること,さらに住民の高い受容度が確認され,現在内陸部 Ndhiwa の高度マラリア流行地およびアルテミシニン耐性原虫封じ込めるために Kagera地域への展開を進める.経済学的介入では,教育と金銭的インセンティブを組み合わせることで,住民の積極的な予防行動と早期受療行動を促進する仕組みを開発・検証することを目的とした.教育教材が行動変容を促す有効な補助手段となり得ることを示した一方で,金銭的インセンティブについては,制度設計の改善とさらなる検証が必要であった.今般,歴史上最初のマラリアワクチンが遂にアフリカに導入され,対象地でもそのロール・アウトが進む.しかしマラリアに対する magic bullet はない.我々は,見出した OlysetPlus 天井式蚊帳による新規媒介蚊対策をワクチン,治療薬などによる介入と統合し,強力な住民参加を担保した多角的マラリア撲滅戦略を提唱する.1.研究目的 過去半世紀の地球規模のマラリアと開発の推移を概観すると,アフリカと東南アジアの顕著な乖離が明らかである.1980 年を起点として,東南アジアではマラリア死者数が漸減していき,経済開発が飛躍的に進んだのに対して,アフリカでは死者数が激増し,開発が停滞してきた [Henley D. 2015; Murray CJ, et al. 2012].Sachs は,マラリアと貧困の循環において,マラリアによる貧困のベクトルは,はるかに強力であり,出生率,生産性,欠席,医療費など複数の経路があることを示した [Sachs J, Malaney P. 2002](図 1). 2004 年をピークに,死者数は減少に転じたが,現在もその 95%が熱帯アフリカの 5 歳未満小児に集中する.しかし,減少傾向は,2015 年頃より下げ止まりが見られ,コロナ・パンデミックによって 若 干 上 昇 に 転 じ た.SDGs は “End malaria by 2030”を掲げるが,その達成は難しいのが現状である.新型コロナウイルス感染症パンデミック下のマラリア根絶:社会・経済学と医学の統合的アプローチを通じた熱帯アフリカにおける挑戦

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