外国につながる1高校生の進路形成への支援
―日本におけるキャリア教育の包摂性と限界―
本稿は,日本の高等学校における外国につながる生徒へのキャリア教育の意味について検討するものである。神奈川県の高校での多文化教育コーディネーターによる支援実践を事例として,それぞれの進路支援が日本のキャリア教育の枠組みのなかで担う機能を分析する。そのうえで,外国につながる生徒がキャリア教育にいかに包摂されているのか,またその過程で生じる制度的・社会的制約の影響と限界について考察する。
1. 外国につながる高校生の進路をめぐる動向
2025年度に国立・公立高等学校に在籍する外国籍生徒は13,040人にのぼり(文部科学省 2025),2023年度に日本語指導を必要とする生徒(外国籍・日本籍を含む)は5,573人と,この10年で約2.3倍に増加している(文部科学省 2024a)。日本語指導が必要な高校生等においては,高校中退率や非正規雇用への就労率,さらには進学も就労もしない状態にある者の割合が,日本人生徒全体と比べて顕著に高いことが指摘されている(図1,文部科学省 2024a)。本稿では,日本の高校におけるキャリア教育に着目し,外国につながる生徒の進路形成との関係について検討する。とりわけ,日本の高校で実践されているキャリア教育が持つ包摂性と,そこに潜む限界を明らかにすることを目的とする。
日本では2020年以降,外国につながる高校生についての研究,とりわけ生徒たちのキャリア形成に焦点を当てた研究が目立つようになっている(清水・児島ほか 2021; 樋口・稲葉 2023; 山本・榎井 2023)。海外に目を向けると,移民の高校生たちの教育期待や教育達成についての研究蓄積が少なくないことがわかる。まず,移民の生徒たちが社会経済的に不利な状況に置かれていても,高い教育的・職業的達成を期待する傾向として,「移民の楽観主義(Immigrant Optimism)」という概念(Kao & Tienda 1995)が挙げられる。こうした志向は,特定のエスニック・グループが学業達成に不利であるとの言説への批判理論でもあり,むしろ移住をめぐる家族の経験や教育への価値観,子どもの将来に対する願望等によって形成されると主張されている(Kewalramani & Phillipson 2020)。また,移民の青少年の将来像は,出身国における教育やキャリア機会の制約に関する経験や認識にも影響を受けており,そうした制約を乗り越えようとする志向が高い教育・職業的期待につながる場合もある(Birman, Oberoi et al. 2022)。一方で,子どもへの教育期待は高いものの,移民の保護者たちの学校制度へのアクセスが弱いことも課題となっている。学校参加や学校とのコミュニケーション,進路情報への理解等が,生徒の教育達成の関連が着目されており,家庭の教育資源や社会関係資本が学校との関係形成に影響を与え,それが移民背景の高校生の教育達成や進路形成に重要な役割を果たすことが明らかにされている(Suárez-Orozco et al. 2008)。
2. 日本におけるキャリア教育と外国につながる高校生
日本におけるキャリア教育は,1999年の中央教育審議会答申を契機として本格的に制度化された。当時,若年層フリーターの増加が社会問題として認識されるなかで,学校から職業生活への移行を円滑にする教育の必要性が指摘され,キャリア教育が導入された。文部科学省によると,キャリア教育とは「社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,個人のキャリア発達を促す教育」と定義されている(文部科学省 2026)。現行の高等学校の学習指導要領では,「総則」にキャリア教育が明記され,「生徒が自己の在り方生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう」,学校全体で組織的・計画的な進路指導を行うことが定められている(文部科学省 2024b)。
このように日本のキャリア教育の理念は,生徒が自らの将来を主体的に設計することを重視しており,生徒の主体性を育むという点で重要な意義を持つ。ただし,この側面が強調されすぎると,「生きる力」や「人間力」といった価値が前景化する一方で,進路選択は個人の努力や意欲に還元されやすい。しかし,学力も依然として重視されているため,生徒には二重の基準が課される(本田 2020: 148-153)。とりわけ外国につながる生徒の場合,在留資格や家庭の経済状況,進学情報へのアクセスといった,個人の努力のみでは克服しがたい要因が進路形成に影響する。また,多くの生徒の出身国では学力重視型の進路選択が中心である場合も多く,日本のキャリア教育との間で,「隠れたカリキュラム」への適応に困難をともなうことも予想される(坪谷 2015)。
外国につながる生徒に対する日本語教育も,将来の進路形成を見据えた教育として位置づけられるようになってきている。2019年に制定された「日本語教育の推進に関する法律」では,外国人児童生徒が「生活に必要な日本語」を習得することにとどまらず,将来の進学や就労に対応できる日本語能力を身につけることの重要性が指摘されている。また,義務教育段階ではすでに2014年より認められていた「特別の教育課程」の編成による日本語指導の実施が,2023年度から高等学校においても可能となった。たとえば,文部科学省の委託を受けた東京学芸大学の調査研究でも,個別の指導計画に基づく包括的な指導・支援の重要性とともに,生徒の母語や母文化を活かし,高校教育における多文化共生の視点を促進することが示されている(東京学芸大学先端教育人材育成推進機構外国人児童生徒教育推進ユニット 2024)。
このように近年,日本語教育は進路形成や社会参加と結びつけて理解されるようになり,外国につながる生徒のキャリア教育が重要な課題となりつつある。本稿では,執筆者が多文化教育コーディネーターとして関わってきた支援実践を事例に,日本の高等学校のキャリア教育の枠組みのもとで,進路支援がどのように機能しているのかを分析する。それにより,外国につながる生徒が日本のキャリア教育にいかに包摂されているのか,またその限界とは何かを考えたい2。
3. 事例研究――進路形成を支える実践過程の分析
神奈川は,移民背景をもつ子どもや若者の教育機会の拡充に向けて,1996年度より滞日年数が短い外国人生徒を対象とする募集枠である「在県外国人等特別募集」の導入や,校内の支援体制の整備が進められてきた地域である(吉田 2024)。本稿の事例である神奈川県立X高校(以下,X高校)は,単位制・全日制課程の総合学科で,上記の特別募集入試を実施しているため,例年800名程度の全校生徒のうち100名ほどの外国につながる生徒が在籍している。なお,本稿では「進路支援」を,進路指導やキャリア教育に加え,生徒の教育的ニーズの把握と,校内外の関係者の連携による支援体制の構築を含む概念として捉える。同校では,各年次から選出された教職員からなる「外国人生徒支援委員会」が設置され,外国につながる生徒への支援の校内体制が整えられている。図2は,2025年度における同校の進路支援の流れを示す。以下の事例と併せて参照されたい。
1) 聞き取り調査を通した進路支援の基盤づくり
進路支援においては,学校経験や家庭環境,在留資格の状況や日本の社会制度に関する理解の程度等,生徒一人ひとりの個別の状況を丁寧に把握したうえでの対応が求められる。X高校では,多文化教育コーディネーターが主体となって面談を実施することで,生徒の背景を学校として認識し,担任をはじめとして教員が協働しながら,生徒の進路選択を支える体制づくりが進められてきた。「聞き取り調査」は,学校側が十分に把握できていなかった生徒自身の経験や認識に直接耳を傾ける必要性が多文化教育コーディネーターから提案され,2008年度より開始された3。生徒の進路選択が個人の主体的な意思として理解されがちだが,この聞き取り調査を通じて,その背後には家庭の状況や移動経験が影響を及ぼしていることがたびたび浮かび上がってくる。
近年の状況として,2024年度は1年次21名・2年次13名・3年次16名の計50名,2025年度は1年次20名・2年次18名・3年次20名の計58名の外国につながる生徒を対象に調査を行った。上述の外国人生徒支援委員会による調整のもと,一人あたり40~50分間が確保され,多文化教育コーディネーター2名が分担して1対1で対応する。使用言語は基本的に日本語であるが,コーディネーターが使用できる英語や中国語で対応する場合もあり,必要に応じて通訳者が同席することもある。1・2年次の生徒に対しては家庭環境や生活状況の変化等を中心に,3年次の生徒には進路希望を軸に,進学や就職に関する情報提供を行いながら進める。聞き取りの対象となる生徒は基本的に担任により選定されるが,3年間継続して面談を行うケースも多く,進路意識の変化を踏まえた支援が可能になっている。また,聞き取りの内容は担任に共有し,ホームルームでの指導にも活用されている。全日程終了後には報告会が実施され,支援委員会の教員だけでなく,多くの教職員が出席し生徒たちの現状と課題を共有する体制づくりにもつながっている。
2) 学級における進路指導への接続に向けた支援
以下では,執筆者が多文化教育コーディネーターとして関わってきたX高校での調査の記録(フィールドノート)に基づく自省的分析を行う。自身が実践の担い手として関与した進路支援の場面を分析対象としつつ,その相互行為の過程を記述・解釈することを通して,生徒たちの抱える課題がいかに立ち現れるのか,またそれに対して教員や多文化教育コーディネーター,学校組織がいかなる対応を試みているのかを検討する。分析にあたり,生徒と教員との具体的なやり取りや,その場における実践者の判断過程を捉えることを重視する。フィールドノートからの引用箇所はインデントで示し,末尾の括弧内に日付・出来事・場所を付記した。また,補足説明は角括弧[ ]で示している。
まず,3年次生のA(東南アジア・女性)の進路指導をめぐる事例を取り上げる。
事前にAの担任のB先生からは,Aが卒業後の進路についてほとんど考えられていないように見えたことへの懸念が共有されていた。執筆者による聞き取りは三者面談よりも長い時間をかけることができ,希望する進路として「介護の仕事」に加えて,「小さい子どもに関わる仕事」や「英語力」を活かせる仕事等,Aの具体的な進路への関心が明らかになった。
単刀直入に「卒業した後は何をしますか?」と質問すると,「caregiver(介護職)」とのこと。何かツテはあるのか聞いてみると,介護の仕事を紹介してくれる知人[中略]がいるとのことで,すぐに「regular worker(正社員)」になれると勧められたのだという。[中略]話していると,実は「nursery(保育)」の分野にも関心があることを教えてくれた。そこで,「もし,小さい子どもに関わる仕事に興味があるなら…」と廊下に案内し,進路指導室の入り口付近に貼ってあるポスター(保育の専門学校に行った卒業生の情報が掲載されていた)を一緒に見る等して,学費のこと等についてしばらく話した。保育士であれば,いずれ国家試験を受けることになると伝えると,「勉強は好きではないから」と諦めの表情。また,持ち前の英語力を活かして仕事がしたいという思いもあるようで,子ども向けの英会話や英語による学童保育等の情報を求人サイト[中略]で見る等しながら話をした。
(2025年7月3日,Aへの聞き取り調査,於:進路指導室2)
つづいて,聞き取りの様子をB先生に報告した際の記録を紹介する。
3人分[中略]の面談の報告であったが,やはりとりわけ心配されていたAの件に話が弾む。宮下が即席で裏紙に書いた卒業までの流れ(就職する場合と専門学校に進学する場合に分けて,出費や手続きが行われる時期を示したメモ)を,面談が終わった後にAが「撮っていいですか?」と言ってスマホで写真を撮っていったことを話した際,B先生の声色がひときわ明るくなり,「よかったー!」と胸を撫でおろす様子が伝わってきた。
(2025年7月10日,聞き取り調査後のB先生への報告,於:職員室)
このB先生の安堵の反応は,学級での日常的な進路指導では十分に把握されきれなかったAの進路意識が,聞き取りを通して可視化されたことを示している。実際に,Aが聞き取り調査によって初めて進路について考え始めたというよりも,むしろ学級での進路指導では十分に表現されにくかった関心や志向が表出し,進路に関わる情報に対し自発的に写真を撮るという行為が,主体的な生徒像に少しでも近づいたとB先生が捉えた反応ともいえる。つまり,学校が前提とする生徒像に外国につながる生徒をいかに接続させるか,聞き取り調査は重要な媒介の一つであると考えられる。
3) 「隠れたカリキュラム」への気づきを促す迂回的実践
聞き取り調査のような個別の進路支援のみならず,学校の正規のカリキュラムにおいて,外国につながる生徒がいかに位置づけられているのかという点も重要である。総合学科高校であるX高校では,1年次の「産業社会と人間」および2・3年次の「総合的な探求の時間」を「未来探索」と名付け,キャリア教育の柱となる必修科目にしている。そこでは,将来の目標設定や職業への関心を深め,個々の生徒の進路実現へとつなげることが目指されている。しかしながら,滞日期間の短い生徒を中心に,この授業に「なかなかついてこられない」という声が教員から繰り返し聞かれてきた。前述の聞き取り調査後の報告会でも,執筆者が,1年次の生徒C(南アジア・男性)が「未来探索は何をやっているのか全然わからない」と語っていたと伝えると,本科目の1年次担当者のD先生からも,「私もどうしたらいいのか本当にわからない」という反応が返ってきた。ここで問題となるのは,これまでの経験の振り返りや将来への希望を日本語で言語化し,進路形成へとつなげていくという学びの形式それ自体が,すべての外国につながる生徒にとって自明的ではないということだろう。
進路にかかる評価においては,授業や進路行事以外にも,提出物への取り組み方,授業中の発言,教員や生徒とのコミュニケーションのあり方等,暗黙のルールや期待が大きな意味をもつ。高校生活における様々な経験を進路形成の糧にするという発想もまた,その一部である。こうした意味で,未来探索のような科目は,キャリア教育の正規カリキュラムであると同時に,日本の学校文化における「隠れたカリキュラム」への気づきや適応の契機ともなっている。
上述の生徒CをめぐるD先生からの問いに対して,執筆者は「学校の授業でキャリアについて学ぶことを日本で初めて経験する生徒もいるので,戸惑う生徒もいる」と伝えた上で,だからこそX高校の実践を手放すのではなく,「(日本の学習内容に馴染みのない)外国につながる生徒に対しても,サポーターの力等を借りながら,その価値をしっかり伝える必要がある」と応答していた(2025年12月8日フィールドノート)。ここでいう「サポーター」とは授業に入り込み支援を行う通訳等の支援者や,「先輩の話を聞く会」にゲストとして参加する大学生・専門学校生や社会人等を指している。
「先輩の話を聞く会」は,多文化教育コーディネーターが企画から関わり,未来探索の授業の一部として外国につながる生徒を対象として毎年実施している。そこは,学校行事への積極的な参加や自らの強みの伸長といった「望ましい高校生活」のイメージが,外国につながる生徒にも理解しやすいように翻訳される場でもある。詳細は宮下(2026)に譲るが,さながら迂回ルートを探るような形で,高校のカリキュラムが前提としている価値や期待へと外国につながる生徒を導くための実践であるともいえよう。
4) 在留資格・奨学金制度と進路選択
外国籍の生徒の場合,在留資格が高校卒業後の進路に大きな影響を及ぼすことになる。たとえば,「家族滞在」のように原則として就労が認められていない在留資格の場合,就職活動時の企業との調整や,内定後の在留資格の変更手続きが必要になるため,高校側にも相応の支援が求められる。また,進学希望であっても,奨学金制度への申請に在留資格や来日時期の違いによる影響もあるため,本人の希望や学力とは別の次元で,進路の選択肢が狭められる可能性がある。
以下は,大学進学を念頭に日本学生支援機構(JASSO)の予約奨学金4の申請を検討していた3年次生のG(南アジア・男性)が,法制度上の壁に直面する場面である。
[放課後は]EがJASSOの予約奨学金の申請書の下書きをするのを手伝った。すぐ隣に2年次生のFとG(いずれも南アジア・男性)がいて,こちらの様子を見ていた。[中略]途中で,[3年次生の]Gが大変な事実に気づいてしまった。Gは面談の際,大学に行くとしても奨学金は必要ないだろうという話をしていた[ので,宮下も特に支援は不要と考えていた]。
しかし,ふいに「先生,来週の木曜はいますか?」と,自分もEと同じように奨学金の申し込みをしたいようなそぶりを見せてきたのだ。「ちょっと待って,Gは家族滞在か! 家族滞在の人は,日本の小学校を卒業していないと,JASSOを使えないんです」と慌てて伝える。それを聞いた瞬間のGの落胆した表情。それを見たEとFが(おそらくヒンディー語で)何やら囃し立てる。Gはそんな二人に言い返す気力もなさそうな様子で,「もう就職しかないです…」とこちらを見てつぶやく。
17時になって帰り際,Gを励ましたくて「就職にするなら,来週の三者面談のときに必ず担任の先生に話してください。仕事はたくさんあるので,今から頑張れば見つかるから」と伝えた。
(2025年6月12日,放課後「多文化教室」での支援,於:1H教室)
この事例はGの進学断念という事実以上に,進路希望が本人の努力や学力とは別次元の在留資格や奨学金の規定によって,突如として選択肢そのものが限定されてしまうことを示している。通常の進路指導では,生徒の希望や意欲,学力等の要素が重視されがちであるが,外国籍の生徒の場合,各種の法律や制度が進路の前提条件を左右することに注意を払わなければならない。
これを踏まえ,X高校では外国籍生徒の在留資格に関する情報を把握し,適切な進路指導につなげる体制が整えられている。在留資格に関する専門家や講師を招いた教員研修会のほか,執筆者は多文化教育コーディネーターとして,会議や担任・支援担当教員とのやり取りの中で,在留資格に関する留意点を意識的に共有し,学校全体での認識が広まるよう努めている。もっとも,在留資格をめぐる制度運用は流動的であり,つねに最新の動向を把握する必要もある。たとえば,上記の事例に見られるように,2024年度募集以降,「家族滞在」の生徒であっても,日本学生支援機構の奨学金を申請できるようになったが,「小学校等を卒業する年齢」以前という滞日年数の条件が課せられている。そのため,滞日年数が比較的短い生徒が多く在籍する同校のような高校の進路指導において,その影響は小さくない。
5) 外国人保護者のための進路情報の充実に向けて
子どもや若者の進路形成において保護者の関与が重要な意味をもつことは言うまでもない。しかし,外国につながる生徒の進路をめぐっては,保護者とのコミュニケーションの中で葛藤や行き違いが生じることも少なくない。とりわけ,日本の学校において共有される進学・就職の情報やキャリア観が,必ずしも家庭内で共有されているとは限らない。
中学校3年生の途中に日本の中学に編入し,特別募集で入学したH(東南アジア・女性)は,来日間もない中でも,日本語学習や放課後補習への参加,アルバイトに意欲的に取り組んでいた。進路についても早い段階から志望校を定め,英語の資格取得に向けた準備を進める等,積極的に将来を見据えて行動している生徒であった。Hからは,両親が大学進学に必ずしも前向きではないことを聞いていたが,奨学金についてもしっかり調べていたことから,おそらくは順調に受験へと進んでいくものと教員たちからも期待されていた。しかし,3年次の夏にHは進路希望を就職へと変更したいと申し出た。
[就職支援を担当する]I先生から,「3年生のHが就職希望に変えたいということで,今日呼んでるんですけど,同席していただけますか」とのこと。[中略]放課後,HとI先生と進路指導室2で話す。内容としては,英語通訳も兼ねながら,I先生主導のもと,就職活動の流れを本人に説明するような面談であった。[中略]Hに尋ねてみる。「やっぱりお父さん,大学行くのは反対だって?」「そう。大学は医者か弁護士になりたい人が行くところだから意味ないって。だからまずは自分で仕事して,それから[中略]大学行く」
(2025年7月17日,I先生とのやり取り,於:職員室/Hとの面談,於:進路指導室2)
H自身は,同校における進路指導やキャリア教育を通して将来像を具体的に構想していたにもかかわらず,その進路選択は,保護者の「母国の」キャリア観とのあいだで揺れ動く状況に置かれていた。実際,Hは「医者」や「弁護士」ではない職業領域に関心を持ち,その目標達成のためには大学進学が必要であると執筆者にも語っていた。もちろん,こうした傾向は,外国人保護者一般に共通するものとして捉えることはできない。しかし,日本の学校で共有されるキャリア形成のモデルと,生徒たちの家庭内で共有される将来設計の間に,時に小さくない隔たりが生じるのである。それは生徒本人の意欲や努力の不足としてではなく,家庭がアクセスできる情報の範囲や,日本社会における進学・就職の制度への理解の差として捉えられねばならない。
こうした問題意識から,同校では保護者への情報提供にも取り組み始めている。たとえば,2025年度からは,新入生の保護者を対象にしたガイダンスが実施され,学校生活のほか,進路状況や進路に関わる在留資格について,多言語の通訳による情報提供の場が設けられている。
4. キャリア教育の包摂性とその限界
X高校における進路支援の実践は,キャリア教育が前提とする「主体的な進路選択」の理念に基づく校内のプログラムに,外国につながる生徒をいかに接続させ,包摂していくかをめぐる取り組みである。とくに本稿の事例のような高校においては,一般入試よりも総合型選抜や推薦入試といった特別枠による進学が主流であり,自己分析や自己理解,志望理由書や面接で自身の達成経験や将来像を言語化し表現することが奨励されている。就職希望の生徒に対しても同様に,自己表現の重要性が教員や支援者によって求められている。この点は,生徒の主体性を育成し,それを促進する働きかけとして大きな意義を持つ。また,生徒は担任や教科担当教員,支援者など,多様な他者との関係性のなかで,自らの位置づけや進路意識を形成していくことになる。これらのコミュニケーションの多くが日本語を媒介として行われるため,文科省の推奨する進路形成や社会参加に接続する日本語能力の習得という観点からも,その教育効果は決して小さくはないだろう。
しかし同時に,これらの実践は,学校の通常の進路指導の枠組みでは見えにくい課題を可視化し,それに対応する契機としても機能していた。
具体的には,聞き取り調査は,進路希望の確認にとどまらず,生徒の移動経験や家庭内の進路観,制度理解の程度といった,学校が前提としていない条件を顕在化させる役割を担っていた。教員間での聞き取り結果の共有は,担任に限らず,学校全体としての課題認識の形成に寄与している。未来探索での実践は,キャリア教育が前提としている態度や行動様式がすべての生徒にとって自明ではないことを体現している。他方,法制度上の制約や外国人保護者をめぐる課題は,生徒個人の主体性や努力のみでは解決しえない問題として立ち現れていた。これらの課題に対応した支援実践が示したのは,外国につながる生徒の進路形成において,学校が考える主体的な進路選択の前提条件が不均等に配分されているということであろう。
以上を総括すると,X高校における進路支援は,既存のキャリア教育において自明視されてきた主体性のあり方を再帰的に捉え直す契機であることがわかる。個々の進路支援は,1回限りの学校行事ではなく,聞き取り調査を基盤とした個別支援と教員間の情報共有の集積によって形成される支援のインフラの上に成り立っている。これを可能にしているのは,支援委員会を中心とした校内組織の存在も大きい。これらの実践は,一方では生徒をキャリア教育の枠組みに接続し,他方では進路形成を規定する構造的な制約を問題化するものである。外国につながる生徒への進路支援は,こうした二つの側面の交差のもとで展開されている。
日本におけるキャリア教育は1999年の中教審答申以降,日本人生徒を前提に制度化されてきた。一方で,外国につながる生徒の進路形成やキャリア教育について政策的に言及されるようになるのは,2020年代に入ってからであり,両者のあいだにはおよそ20年の時間差が存在している。言い換えれば,日本のキャリア教育および日本語教育の枠組みに位置づけられるようになったのは比較的最近のことであり,いわば「20年遅れの包摂」ともいえる状況である。そのため,外国につながる生徒にとっては,日本語や教科学習のみならず,進学情報へのアクセス,在留資格,家庭の経済状況,進路に対する保護者の理解等,さまざまな要因が進路選択に影響を及ぼすことが考慮されなければならない。これらを踏まえると,日本のキャリア教育がそのまま外国につながる生徒にあてはまるとは限らず,教育の理念と生徒たちの置かれた現実とのあいだにどのような関係が生じているのかが詳細に検討されなければならない。
謝辞
調査にご協力くださった方々,とくにX高校の関係者の皆様に心より感謝申し上げます。





